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2015年12月25日 (金)

一生モノの超・自己啓発 鎌田浩毅著 朝日新聞出版

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先ごろTBSの「情熱大陸」に出演するなど、話題の京都大学の鎌田教授の最新刊です。これまで多くの自己啓発本を出版してきた著者ですが、この本ではこれまでの自己啓発本出版の反省から、それを超える概念を提唱しています。

これまでの著者のビジネス書執筆の根底にある発想は、科学者の用いる「予測と制御」だったといいます。つまり仕事や人生は、すすめかた次第ではコントロールすることができ、幸福な人生は自分でつくることができるというものでした。多くのビジネス書はたぶんこのような考えがベースにあり、幸福な人生を送れていない人は自分自身で努力を怠っているのだということなのかもしれません。

けれども、東日本大震災や御嶽山の噴火があり、多くの地球科学者の予想を裏切るような出来事が立て続けに起こったことで、著者の考えに変化が出てきたのだといいます。それは「予測と制御」をもとにしたこれまでの主張に疑問が出てきたからです。地震はともあれ、火山の噴火については地球科学の研究の成果によって予知ができると思われていたそうですが、御嶽山の噴火は突発的で、多くの死者を出してしまったことはショックな出来事だったそうです。

著者によると、1000年に1度の巨大地震のあとに突入した「大地殻変動の時代」においては、これまでの小手先のノウハウでは到底間に合わなかったため、これまでの自己啓発書を超える手法が必要なのだったそうです。

本書では多くのノウハウが開陳されているのですが、なかでも不確定要素が多く、なかなか結論がでない場合に用いる「流れで行く」ということに共感しました。これはスキーやスノボで使う「抜重」という技術から流用されています。スキーをやらない人にはわかりにくいと思いますが、うまく滑ろうと思うと、自分自身であまり方向を決めて曲げようと思わず、斜面の角度や状況に乗るようにある意味「他力」で滑るほうがいい場合が多いのです。身体の重心をいったんフリーにして、次の状況を待つという感じでしょうか。著者は人生のいろんな場面やビジネスの現場でも、このような「流れで行く」という手法は応用できるのではないかといいます。その手法は、ただ流されるだけではなく、流されながらも次の方向をきちんと見るということにつながるのではないかと思います。

私たちは自分の人生は自由に生きることができると思っていますが、思ったような筋書きを自分で描くことができる人はまれなのではないでしょうか。そんな自分の思いと社会の狭間をつなぐノウハウとして「自己啓発」という考えが生まれたのかもしれません。なんと子供のころからというビジネス書フリークだった著者が著したこの本は表向き「自己啓発書」の体裁をとっていますが、どうもその中身は100パーセント自己啓発を薦めているわけではなさそうです。ある程度その方法論は使ってもよいが、最後のところは自分自身で経験を積み重ね、自分自身で判断していくことが必要なのではないかと思います。想定外のことが際限なく起きるこの世の中で、依って立つものが見つかりにくいのは皆一緒です。そんな世の中だからこそ、自分を信じて生きていくことが大切だと書かれているように感じました。とても良い本でした。

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